哲学者・作家の千葉雅也さんの小説「デッドライン」読書感想文です。
ネタバレってものがあまりない小説なので、未読の方もぜひ参考にしてください。
「デッドライン」千葉雅也 あらすじ
2001年の春、僕は大学院に進んだ。専門はフランスの現代思想。友人の映画製作を手伝い、親友と深夜にドライブし、行きずりの男たちと関係を持つ日々を送りながら、修士論文の執筆が始まる。テーマはドゥルーズ―世界は差異でできていると唱えた哲学者だ。だが、途中までしか書けないまま修論の締め切りはどんどん迫り……。気鋭の哲学者が描く青春小説。芥川賞候補、野間文芸新人賞受賞作。
文庫本背表紙より
「デッドライン」千葉雅也 感想
シームレスなストーリー進行
デッドラインという緊張感のある題名ながら、物語全体に流れる雰囲気は独特で、ふわっとした掴みどころのない作品だった。そう感じるのは、小説全体にストーリーらしいストーリーがなく、断続的な場面の切り替わりで話が進んでいくからだと思う。また、主人公と登場人物の急な視点の入れ替わりなどが、より一層物語の印象を曖昧にさせている。
起承転結というか、ある程度の物語の型みたいなものってあると思うけど、そういうものをあえて無視しているような小説だった。だからつまらないという評価ではなくて、むしろこのゆるい雰囲気がこの小説の持ち味だと思う。友達との深夜のドライブや宅飲み、その合間に進める大学の課題の描写が大学時代を思い出させてくれて、久しぶりに小説の世界に没頭して読んだ気がする。自分も大学生の時には友達とよくドライブに行ってましたけど、特に目的はなくても楽しかったですよね。なんで大学生ってみんなドライブ行くんですかね。
あと、東京の具体的な地名や通りの名前が登場するので、東京で青春を過ごした人には刺さりそうな小説です。自分は田舎出身で漠然と東京への憧れがあるので、東京で学生生活を送れたらもっと楽しかっただろうなーと思いました。
主人公のセクシュアリティとドゥルーズ
作者の千葉雅也さんは哲学を専門にされている方で、この小説の主人公も大学院の修士でドゥルーズという哲学者を題材に論文を執筆しています。主人公はドゥルーズの思想を自分のセクシャリティ(主人公は男性で同性愛者)と絡めながら思考を進めて行くんだけど、もしかしたらこの辺はとっつきにくい人が多いかもしれない。
自分も同作者の「現代思想入門」を読んだり、その他哲学系の本を読んでおり、哲学的な一見「何言ってんだ?頭大丈夫?」的な表現に多少慣れてはいるものの、小説という形でそれが出てくると、理屈ではなんとなくわかるけど、正直共感はできんかったです。
そもそも自分とはセクシャリティが違うから共感するのは難しいかもしれないと思う反面、でも性愛において他人を求めたり、自分のセクシュアリティについて悩んだり、といった人の普遍的な思考や感情もあるはずなので、少し勉強してから読むともっと主人公の心の動きが理解できるかもしれないですね。
ちなみに、文庫本の最後に書評を読むと、この小説の解像度がグッと上がるので、最後までちゃんと読むことをお勧めします。圧倒的に深くこの小説を読み解いていて、自分の感想の浅さに落胆するけど。
「デッドライン」千葉雅也 まとめ
作者は哲学者だけど、小難しいところ気にしなくても十分楽しめる小説でした。ふわっとした雰囲気で、特別ストーリーを追う必要がないので、気軽に読める小説だと思います。特に東京で青春を送った人には刺さりそう。
千葉雅也さんは小説以外にも「現代思想入門」とか「センスの哲学」とか面白くてわかりやすい本書いてるので、この小説読んで現代思想とか気になった人は他の本もおすすめ。
全然関係ないけど鞄の中に文庫本入れて持ち歩いてたら表紙くっちゃくちゃになっちゃいました。千葉先生ごめんなさい。