【アメリカ紀行】 千葉雅也 ブックレビュー

アメリカ紀行 千葉雅也 レビュー

哲学研究者、千葉雅也のアメリカ留学エッセイのブックレビューです。

大学のサバティカル(学外研究)を利用し、トランプ以降のアメリカへ。「コンビニでは、人が非人称になる」。四か月の滞在で、ありふれた街の光景や人々との会話から見えてきた日本の特異性——。気鋭の思想家が「聖なるもの」「二人称」「分身」等について軽妙洒脱に綴り、小説への萌芽となった哲学的紀行。

文庫本背表紙より引用
目次

感想

解説でも触れられているが、アメリカ「紀行」というタイトルからイメージされる、旅に関してのいわゆる紀行文ではない。確かにアメリカに行って異文化に触れた経験や考えたことが書かれてるんだけど、「紀行」って言葉からイメージした内容を期待するとちょっと裏切られるかもしれない。

ただ自分的にはこのタイトルの内容の不一致は肯定したい。なぜかと言えば、千葉雅也は他にも本を出してて、自分が読んだのは2冊、「現代思想入門」と小説の「デッドライン」。あとほんのちょっとだけ「動きすぎてはいけない ドゥルーズ生成変化の哲学」。

流石に今挙げたうち哲学系の2冊はしっかり論述する文体で書かれてるんだけど、小説の方はふわっとした独特の世界観があるというか、断片的なストーリーや急な場面転換が捉えどころのない雰囲気を作っている。それがなんかクセになるのだが、今回読んだ「アメリカ紀行」はどちらかというと、千葉の小説寄りのふわっと感を感じた(背表紙にも「小説への萌芽となったって書いてあるしね)。だから「アメリカ紀行」ってタイトルからイメージする内容じゃないっていうミスマッチ感と、内容の捉えどころのなさがすごく合っていると思った。

まあ本当に紀行文読みたくて買った人はがっかりするかもしれないけど、この本買うのって大体千葉雅也の著作に興味ある人だと思うから、需要と供給のミスマッチは起きないんじゃないかな。千葉の著作という期待で買うんだとしたら、しっかり答えてくれてる内容だと思う。

ちなみに、上で挙げた小説の「デッドライン」は感想記事を書いてるので、こちらもどうぞ。

Youという二人称

内容の一部に触れるとすれば、千葉は言語的な観点からアメリカのコミュニケーションに慣れなさを感じる。「You」という二人称主語についてだ。中学英語で習う「一文一主一動」、英文には文中に必ず主語と動詞が含まれますよ、というルールがある。文法でそう習うので当たり前のことと思っていたが、たしかに日本語ではそれほど直接「あなた」「君」を明確に指さなきゃ文法が成立しないってことは少ない。

例えば、僕は昔国語の授業で「I love you」をどう訳す?と聞かれ、「私はあなたを愛しています」と直訳したところ、「本当に日本語でそんなふうに言うか?『愛してる』って言うだろ」と言われた。千葉は、日本語は非人称的なのかもしれない、と言う。だとすれば、非人称的な日本語がわざわざ二人称を指定するとき、それはすごく特別で、強い意味になるんだろう。良くも悪くもだが。

本の後半にも再度二人称についての話が出てくる。タクシー運転手との軽い会話の場面で、東京<大阪<アメリカの順に他人との軽いコミュニケーションが多くなるという。それについて“一瞬、人のやさしさを感じるが、一瞬で煙のように消える。”と表現している。

このようなコミュニケーション様式は様々な文化的背景が影響しているのだと思われるが、「You」と他者を特定する言語が目の前の人間をことさら意識させ、会話を取る行動が表れるのだろうか、と一連の流れを読んで考えた。

【アメリカ紀行】 千葉雅也 まとめ

まとめると、著者の哲学的な、独特な視点で紡ぐアメリカ留学エッセイという感じ。何ともつかみどころのない感じが、ハマる人はハマると思います。

千葉の他の著作では、「現代思想入門」はめっちゃ読みやすいので超おすすめです。言葉遣いも優しいし、なんなら哲学書の読み方まで軽く教えてくれる。

哲学の入門書、全然入門書じゃない問題ってあるあるなんだけど、この本は大丈夫。わかりやすいというか、実際わかってないと思うんだけどわかった気にさせてくれて、もうちょっと深く知りたいと思わせてくれるので、入門書としてはこの上ない役割を果たしてると思う。

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